―― Vol.17 さくらフードサービス ――
言うまでもなく、介護・福祉業界の最大の課題は人手不足だ。数多くの業界も同じく人手不足に喘いではいるが、介護・福祉業界は年々需要が増加しているという点がさらに拍車をかけている。そして現場でも大きな負担を占めるのが給食運営だ。介護・福祉における給食の最大の特徴として「365日3食を提供する」点が上げられ、特に朝食は早朝勤務が必要となり余計に人手が足りなくなる傾向にある。
そんな中、まったく新しい給食サービスを開発し、この人手不足問題に立ち向かう経営者がいる。福岡県内で給食サービス事業を展開するさくらフードサービス株式会社の代表取締役社長 永松康朗氏だ。
永松社長が開発・特許を取得したオールインワン給食サービス『さくらの御膳』は、セントラルキッチン「さくらの御膳キッチン」にて作られた弁当をチルド保存したまま導入先の施設へ配送し、施設側は受け取った弁当をマルゼンのリヒートマイスター(冷却機能付き再加熱調理機)で再加熱するだけで配膳が可能になるというものだ。従来のように施設内の厨房での調理や盛り付けなどの業務が一切不要になり、さらに喫食後の弁当箱は残滓ごと同社が回収してくれるため、生ごみの処理や洗い物からも解放される。導入した施設では大幅な省力化を実現できており大変喜ばれているそうだ。
さっそく、永松社長にお話しを伺った。
『さくらの御膳』開発のきっかけ。
「私がさくらフードサービスを立ち上げて2年目のときのことでした。」
記録的な猛暑となった今年8月。豊かな自然に囲まれた福岡県糸島市にある同社のセントラルキッチン『さくらの御膳キッチン』へ永松社長を訪ねた。
「ある日営業先のお客様から、"最近は介護職よりも厨房のパートさんの方が集まらなくて困っている。料理の盛り付けや洗い物をするパートさん達が辞めてしまったので、今は介護スタッフが厨房に入って施設長が洗い物をしている。もうとにかく人手が集まらない"と言われたんです」
そのお客様は永松社長にこうも仰ったと言う。
"なにか画期的なものを作って欲しい"
「なにか画期的なものを」。顧客よりそう要望された永松社長は、「チルド弁当を配送し、喫食時に施設にて再加熱する」という『さくらの御膳』の構想を描き、3年という歳月を重ねてシステムを構築(当社マルゼンも調理実験や再加熱機器の製造を通じて携わらせていただいた)。現在では『さくらの御膳』がビジネスモデルとして特許も取得し、数多くの施設が『さくらの御膳』を導入。施設のスタッフの皆さまはもちろん、利用者の方々からも喜ばれている。
【導入先施設】社会福祉法人敬愛園 ケアスタ福岡様①
この日は実際に『さくらの御膳』を導入されている社会福祉法人敬愛園のケアスタ福岡様にもお邪魔させていただき、管理者 法川様にお話しを聞かせていただくことができた。
「施設内で調理や洗い物をするとそこに人手や時間が取られますが、『さくらの御膳』を導入してからそれが必要なくなりました。また残滓ごと弁当箱を回収していただけるので洗い物はもちろん、生ゴミの処理も無くなったのでゴミがほとんど出ません。ゴミが無いというのは本当に助かります」
"総じて以前より利用者の方と関わることに時間を割けるようになった"と法川氏。『さくらの御膳』は施設のスタッフの方の負担を軽減するだけではなく、利用者の方とのコミュニケーション促進にもお役に立っているとのこと。
■管理者 法川様
人手不足対策が美味しさにつながる
『さくらの御膳』はもともとは人手不足問題を受けて構築された給食システムではあるが、「施設側の負担を極力減らし、再加熱だけで配食が可能になる」という手法は結果として適温提供の実現につながり、導入した多くの施設からは「美味しさが導入の決め手だった」という声も上がる。
「一般に福祉施設では温冷配膳車は使っていないんです」
永松社長は言う。
「そして例えば昼食でしたら10時半ごろからメインのおかずや小鉢などの盛り付け作業を始めていくんですが、ずっと常温に晒されているわけです。冬場であれば当然冷める。結局利用者様の口に入るまでにはご飯はやや温かいくらい、おかずは冷え切っている、という状態がほとんどですが、『さくらの御膳』の場合、開けたら湯気が出るくらい温かい状態で食べていただけます。それが美味しく感じていただける理由だと思います」
とは言っても「再加熱しても美味しいお弁当づくり」は当然多くの試行錯誤があってのことだ。
「とにかく試食を徹底しています。よく味見もせずに提供してクレームになったりする企業がありますが、うちはお客様に提供するものは毎日スタッフが試食をして検食簿に記入していますし、ハンバーグも手作りです。美味しい食事を提供するために当たり前のことを当たり前にやることを心がけています」
【導入先施設】社会福祉法人敬愛園 ケアスタ福岡様②
「利用者の方が一番喜ばれているのが熱々の状態で食べられるという点です。今までは施設内で調理した食事を提供していましたが、なかなか温かいままで提供するのが難しい状況でした。しかし『さくらの御膳』を導入してからは本当に食事が熱々のまま提供できるので皆さん本当に喜んでいます。温かい方が食も進むみたいで、食べ残しの量も減り喫食率も向上しました」(前述の法川様)
■ケアスタ福岡様にて昼食時の配膳準備の様子。再加熱した弁当箱は熱々なので軍手を使用している。
マルゼンとの共同作業
また合わせて再加熱のプログラム作りや、専用の再加熱用食器の制作にも注力した。ここでは当社のインストラクター西岡がお手伝いをさせていただいた。
「インストラクターの西岡さんには本当にお世話になりました。再加熱の設定に関しても、例えば麺が伸びないようにするにはどうすればいいのか、といったことや温度や時間の設定をずっと実験してくれていたんです。試作機ができてからはマルゼンさんの福岡支社のテストキッチンもお借りして実験や試食会を繰り返しました」
永松社長は続ける。
「他にも再加熱に使用する専用食器を作らなければならなかったんですが、こちらも西岡さんが食器メーカーを見つけてきて紹介してくださった。おかげで商社を介さずに直で取引できるようになりました。また食器の洗浄に関してもマルゼンさんのチームがどういうやり方にしたら一番早く洗浄ができるか、といったことを何度も実験してタイムまで測ってくださったんです」
多くのマルゼン製品が導入された『さくらの御膳キッチン』
さて、永松社長のお話しを伺った後はセントラルキッチン『さくらの御膳キッチン』の厨房へお邪魔させていただく。こちらでは当社製のスチームコンベクションオーブン〈スーパースチーム〉をはじめ、カートインタイプの器具消毒保管庫やデリカ向け電気フライヤー、パススルータイプの消毒保管庫など多くのマルゼン製品をお使いいただいていた。
永松社長は言う。
「私は以前からマルゼンさんの厨房機器を使っていたのでもうそれが当たり前になっています。それに今回のセントラルキッチンの機器の選定等に関してもインストラクターの西岡さんをはじめ、営業の方などスペシャリストの人たちがいたので本当に助かりました。感謝感謝です」
画期的な給食システム『さくらの御膳』の構築に、マルゼンのソリューションも貢献できたようだ。
リヒートマイスターの優れた使い勝手【ケアスタ福岡様】
そして『さくらの御膳』の提供時の再加熱という重要な工程を担うのが当社製のリヒートマイスター(冷却機能付き再加熱調理機)だ。永松社長いわく、「冷蔵機能がついているのが素晴らしい」とのこと。
「この冷蔵機能があるかないかで全然違います。この機能のおかげで朝食を準備するのに朝6時に早朝出勤してセットして温める、といった作業が不要になりますから。夕食の提供が終わったら翌日の朝食分をセットしておけば、夜中の間は冷蔵してくれて早朝に勝手にスイッチが入って温めてくれる。朝、出勤したら配るだけですから。本当に素晴らしい」
また現場での使い勝手については前述のケアスタ福岡の法川様から頂戴したお言葉を紹介したい。
「複雑なことは何もないです。この機械(リヒートマイスター)自体がタイマーでセットされているので、私たちがやる作業といえばお弁当の出し入れと最後にクーリングと予冷をするだけです」
※ケアスタ福岡様ではリヒートマイスターのメニュープログラム機能によりチルド保存から再加熱の動作はすべて自動で行っているため、施設スタッフの方は弁当の出し入れ作業のみ行えば良いとのこと。
「タッチパネルが大きいので操作もしやすいですし文字も見やすいです。再加熱中や保温中の表示も見た目であとどれぐらいで終わるかが感覚的にわかるので助かります。また土曜日の朝だけパン食なのですが、ロールパンも美味しく再加熱できるので利用者の方にも人気ですね」
さくらフードサービスの『さくらの御膳』とマルゼンのリヒートマイスターによって、施設スタッフの方の負担を大幅に軽減し、利用者の方に美味しい食事を提供するという理想的な給食運営が実現できているようだ。
『さくらの御膳』で社会貢献を目指す。
永松社長に今後の展望を伺った。
「『さくらの御膳』に関しては多くの問い合わせをいただいてます。例えば"学校の給食がとにかく冷めきっていて美味しくないので『さくらの御膳』を導入したい"という議員さんもいらっしゃいましたし、"離島で食事を作れる施設が無いので『さくらの御膳』を船便で配送できないか"というお話もありました。他にも老人ホームが不足していて多くの高齢者の方が一人暮らしをしていらっしゃる地域もあります。自治体と訪問看護ステーションに協力をしてもらえばそういった方たちにも『さくらの御膳』を届けることができるのではないか、ということも考えています」
「また、さくらフードサービスではセントラルキッチンの食器洗浄は障碍者の方にお願いしています。皆さんとてもしっかりした方で本当に助かっています。『さくらの御膳』の裾野を広げていって、工場も増やすことができれば障碍者の方の雇用も作ることができます。こういったWin-Winな形でやっていければと思っています」
年々深刻化する人手不足によって日本中の給食サービスが立ち行かなくなりつつある昨今、『さくらの御膳』はその困難な現状に射し込む一条の光なのかもしれない。