―― Vol.16 Restaurant MOTOÏ ――
京都市中京区・俵屋町の落ち着いたエリアにひっそりと佇む〈Restaurant MOTOÏ〉。白い暖簾に控えめな店名のロゴ、そして大正時代に建築された呉服店をリノベーションした外観はまさに京町屋そのもので、一見ここがフレンチレストランだとは気付かない人もいるかもしれない。しかし同店は2012年にオープンするやいなや1年と経たずにミシュラン1つ星を獲得し、以来12年もの間ミシュラン1つ星を獲得し続けているモダンフレンチの名店だ。
オーナーシェフの前田元氏が料理の道へ入ったのは18歳のときのこと。もともとフレンチを志していたが、当時門戸を叩いたホテルには中国料理の枠しか空きが無く、まずは中国料理で10年間研鑽を積んだ後に念願のフレンチに転向。本場フランスでの1年間の修業、そして帰国後のフレンチの名店での経験を経て2012年にオープンさせたのがこの〈Restaurant MOTOÏ〉だ。「中国料理10年間」という履歴を打ち出した前田シェフのモダンフレンチは一躍注目を集め、さらに京野菜や和食のエッセンスも取り入れた独特の料理は大きな話題と反響を呼び、オープンから1年足らずでミシュラン1つ星の獲得となった。
さて、〈Restaurant MOTOÏ〉の暖簾をくぐり店内に足を踏み入れると、外観からは想像もつかない開放的な洋風のダイニングが現れる。しかし、元々の呉服店の雰囲気はそこかしこに残されており、和と洋のエッセンスが融合した独特かつ居心地の良い空間が広がっている。
さっそく、前田シェフにお話を伺った。
フランス料理を志した幼少期の記憶。
---ご実家の古書店の料理本を絵本代わりに読んだのが料理人を志したきっかけとお伺いしました。
「私の実家が河原町三条というところで古書店をやっていたんですが、児童書は扱っていなかったので絵本などはなかったんです。それで絵のある本というのがたまたま料理の本だった。また当時フレンチのシェフがうちの古書店に売りに来られることが多かったので、特にフランス料理の本が多くて、自然とフランス料理の本を絵本代わりに読むようになりました」
---それをきっかけに幼少の頃にフランス料理のシェフを志し、実現してしまうというのが凄いと感じてしまいます。
「逆に"料理人になる"というのを勉強しない言い訳に使ったりもしました(笑)」
笑いながら前田シェフは謙遜する。
「ただ途中でぶれることはありませんでした。何か違うことがやりたい、と思うことも無かったですし、自然と"自分はフレンチのシェフになるんだ"としか思っていなかった。そこに関しては一直線に進んできたのかなと思います」
"御馳走"の体現と付加価値の創出。
---以前インタビューで「馬に乗ってあちこちを走り回って食材を集めるのが"御馳走"の語源。それをバイクで現代に体現したい」と仰っていたのがとても印象的でした。
「たとえば東京だったら、もうどこにいても世界中のものが手に入るんですよ。しかし現場に行かないと得られないアイテムだったり、情報っていうのは絶対にあるんですよね。そういったアナログでしか手に入らないものの価値は年々上がってきてると思うんです。ただ簡単に手に入り得る世の中だからこそ、そうじゃないものを手に入れるためには、自分が走り回らないと得られない。しかしそこが他の人にはできない部分でもあるので、そこに取り組むことで新しい価値観や、〈Restaurant MOTOÏ〉の強みを作り出していく、ということを考えています」
--雑誌『料理王国』2月号では前田シェフは「これからの飲食店は顧客ニーズにだけ答えるのではなく、時代の流れにアジャストしながら、独自性を打ち出し付加価値を高めていくことが必要」ともおっしゃられていました。
「その人にしかできない付加価値を作り出すことが今のシェフには求められていると思うんです。どこでも食べられるものを提供しているだけではもう評価されない。さらにニーズの部分。ニーズというのはその時々によってどんどん変化していきます。そこに自分の価値を調整して合わせていかないと、その価値っていうのは全然評価されなくなってしまう。ですので、そこを読み解く力というのは絶対に持つ必要があるんです」
【黒毛和牛のロースト/たっぷりのお野菜と共に】
この日いただいたメニューの一部。前田シェフ自ら京都市は左京区大原まで出向いて仕入れてきた豊富な京野菜が和牛ローストを華やかに彩る。驚くべきはその種類で実に60種類。それぞれが異なる調理方法で火入れされており、恐ろしく手間がかかっている。60種類の京野菜はそれぞれ食感や味の違いが楽しめるため、口に運ぶ度に新鮮な感動が味わえる。もちろん絶妙な火入れ加減の和牛ローストも絶品。
いま飲食店に求められていること。
--以前のインタビューで経産牛に注目されてるというお話を拝見しました。「今まであまりスポットライトを浴びてこなかった食材を自分たちの頑張りで良いメニューに昇華させていくことがこれから求められてる」と。これはフードロスの観点からの取り組みなのでしょうか。
「近年のSDGsなどの取り組みを考えたときに、もう飲食店というのは過去のような"どんどん量産して廃棄する"ということは許されない時代になっています。いまランチで出してる魚のスープがあるんですが、名前が"未来のスープ・ド・ポワソン"といいます。スープ・ド・ポワソンというのはフランス語で「魚のスープ」という意味なんですが、なぜ"未来の"と名付けたかというと、未利用魚を使っているんです」
「兵庫県の明石浦漁港から送っていただいてるんですが、神経締めをして下処理を完璧にしてくれています。それを我々は丸々ぶったぎってウロコもついたまま内臓も全て炒めてスープにしてるんですが、下処理が完璧なので臭みも全くなくとてもクリアなスープになるんです。これまで廃棄されていた未利用魚もそうやって手間をかけることでこれだけ利用価値のあるものに変えることができるんです」
前田シェフは続ける。
「いま日本の漁獲量は年々減少しています。それは"売れる魚"ばかり獲ってしまうからなんです。そこで今までは見向きもされなかった未利用魚の価値を上げていけば、これまでのように"売れる魚"ばかりではなくバランスよく獲ることで水産資源を継続的に獲り続けることができる。"未来のスープ・ド・ポワソン"は、そういった未来の日本の水産のあり方を現したスープなんです」
【未来のスープ・ド・ポワソン】
明石浦漁港で上がった"未利用魚"を使ったスープ。豊かな魚介の香りと驚くほど濃厚な味が強烈な印象を残す。しかしこれだけ濃厚な味でありながら、前田シェフの言葉どおり一切の臭みがなく凝縮された魚の旨味だけを純粋に味わうことができる。前田シェフの水産資源問題への取り組みを表す象徴的なメニュー。
「お客様への説明に責任を持つ」。
--先ほど水産資源の話があったと思うんですが、前田シェフはChefs for the Blueでの活動を通じて水産資源問題にも取り組んでおられます。飲食店のフードロスへの取り組みというと、お店の中でできることに取り組まれる方は結構いらっしゃると思うんですが、そこを飛び越えて水産資源の問題まで行動を移す方はなかなかいらっしゃらない気がします。前田シェフのそのモチベーションはどこから来るのでしょうか。
「"正しい知識を得たい"と思ったのがきっかけなんです。例えば"今年はサンマが取れなくなっているけど何故ですか?"とお客様に聞かれたときに、インターネットで得た情報をお客様に話してしまうのはすごく無責任だと思っていて、自分の知見を高めるために、ちゃんとした正しい情報を得るためにChefs for the Blueに参加したんです。そこで水産資源について勉強をしていく中で、"これは自分たちがアクションを起こさないと駄目だ。このままでは水産資源が枯渇してしまう"と感じたので、料理人にしかできないことで何か行動を起こしていこうと考えるようになりました」
"料理人とはただただ料理を提供するだけでは駄目"と前田シェフ。料理はもちろん、食材を取り巻く環境にも責任を持つ前田シェフの矜持が伺える。
【ハマダイのポワレ 白蒸しとソースシブレット】
ほんのりと赤みの残るハマダイの絶妙な火の通り加減には驚くばかり。シブレットで緑に彩られたソースは濃厚のひと言。しっとり柔らかいハマダイと硬めのリゾット、そして濃厚なソースそれぞれの食感のコントラストが心地よい。
「やっぱりこれじゃないと」フレンチの定番。ヒートトップレンジ。
それでは厨房へお邪魔させていただく。フレンチの厨房といえばなんと言ってもヒートトップレンジ(フランスレンジ)だ。
前田シェフ自ら鍋を取り出して説明をしていただけた。
「フレンチはとにかくソースの種類が多いんですよ。こういう小さい鍋をたくさん使うんです。ピーク時になると10個ぐらい並べることもあります」
説明を続けながら次々とソースパンをヒートトップレンジに並べていく前田シェフ。
「やはりこれはヒートトップレンジじゃないとできません。それに鍋を置く位置によって温度の強弱を変えることもできますし、網を敷いてその上に鍋を置くとより柔らかい余熱で温めたりと、色々な使い方ができるんです」
「ヒートトップレンジを使うと"やはりこれじゃないと"と感じますね」と前田シェフ
スチコンは基本性能の高さに満足。
レストランMOTOÏでは他にも当社製のスチームコンベクションオーブン〈スーパースチーム〉デラックスシリーズもお使いいただいている。
「スチコンは主に蒸し物やオーブン調理に使用しています。ただ私のスタンスとして、あまりスチコン上で細かい設定をしたり、調理を数値化をしすぎないようにしています」
それはどういった意図なのだろうか。
「やはりアナログな力って必要だと思うんです。例えば肉を手で触ってどれぐらいの火入れができているか、オーブンに手を入れていま何℃ぐらいか感じ取るとか、そういった料理人としてのスキルは磨きたい。なので機械に求めるのは基本性能がしっかりしていること。マルゼンさんのスチコンは基本性能がしっかりしているので、あとは料理人のスキルで美味しいお料理が作れます」
ガステーブルは高火力に満足。そして美味しいお料理に欠かせないディッシュウォーマーテーブル。
レストランMOTOÏではさらに当社製の〈NEWパワークックシリーズ〉 ガステーブルや、ディッシュウォーマーテーブルもお使いいただいている。主に炒め調理に使用するガステーブルは高火力な点を評価していただけた。また前田シェフのこだわりとして「温かいお料理は極力冷ましたくない」とお皿をかなりの高温で温めるのにディッシュウォーマーテーブルをお使いいただいている。「うちの温度設定はかなり高め。皆最初は持つのに苦労してる」と前田シェフは笑う。このような細かい所にもマルゼンの製品が美味しいお料理の提供にお役に立てているようだ。
これからの料理人とは。
「自分が好きな料理を作って、それをお客様が喜んでくださる。こんな楽しいことは無いと思うです。私は本当にこの料理人という仕事を非常に尊い仕事だと思っていて、お客様に喜んでいただく、楽しんでいただくことで私たちが幸せになれる。こんな仕事はなかなか無いですよ。」
前田シェフは続ける。
「そしてこれからの料理人とはただただお料理を提供するだけではなく、料理人だからこそできることで世の中に貢献していくことが大切。そうやって料理人や飲食店の社会的な価値を高めて、もっと魅力的な業界にしていきたい」
現代に御馳走を体現し、独自の付加価値を打ち出し、さらに社会全体への貢献も視野に入れる前田シェフ。前田シェフが描くこれからの飲食の世界に注目だ。
前田元オーナーシェフPROFILE
京都府京都市生まれ。古書店を営む両親のもとで絵本の代わりに料理本を読み、フレンチにあこがれる。高校卒業後に「京都グランドホテル(現:リーガロイヤルホテル京都)」で3年間中国料理を学んだ後に、「ホテル日航東京(現:グランドニッコー東京 台場)」の中国料理店『唐宮』にて総料理長の梁 樹卿氏のもと中国料理を7年間担当。その後念願のフレンチに転向して渡仏し、フランスのミシュラン一つ星「ジャルダン・デランパール」、ミシュラン二つ星「ラ・マドレーヌ」にて研鑽を積む。帰国後はミシュラン三つ星を獲得した大阪のフレンチの名店「HAJIME」での修業ののち、2012年に「Restaurant MOTOI」をオープンし、ミシュランの1つ星を獲得。以来12年連続ミシュラン1つ星を獲得し続けている
―― SHOP INFO ――
Restaurant MOTOÏ
京都市中京区富小路二条下ル俵屋町186
Tel. 075-231-0709
営業時間 Lunch 12:00~13:00
(最終入店時間13:00 閉店15:00)
Dinner 18:00~19:00
(最終入店時間19:00 閉店22:00)
定休日 毎週水曜日・木曜日
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